Module File for formmail Not Found! 肺も匂い分子で興奮する!?;肺で見つかった嗅覚受容体の大切な役割は?

肺も匂い分子で興奮する!?;肺で見つかった嗅覚受容体の大切な役割は?

2015-10-31 11:27 投稿者:  Monjyu
肺の疾患と関係する嗅覚受容体!     
   さて以前のコラム(2013-12-18)で、匂いを感知する嗅覚受容体は鼻腔の嗅上皮だけではなく、脳、心臓、腎臓などの臓器にも発現していることを述べましたが、最近米ワシントン大学の研究者グル−プにより、肺にも嗅覚受容体が存在することが新たに報告されました。嗅覚受容体が見つかったのは、肺胞などに存在するフラスコ状の特徴的な形状をした肺神経内分泌細胞です。この細胞はセロトニンや神経ペプチドなどの神経伝達物質を豊富に産生します。この神経伝達物質は、周りの上皮細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、神経終末に作用し、肺の発達、生理機能の調節をしていますが、咳やぜん息も誘発すると考えられています。
     
   今回、研究者達は、肺神経内分泌細胞に存在する嗅覚受容体がタバコの煙や排ガスの臭い物質を感知すると、肺神経内分泌細胞がセロトニンや神経ペプチドを放出し、周りの神経や筋肉を刺激し、咳などが誘発されることを示しました。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の肺組織には、嗅覚受容体が健常人よりも多く存在することも確認されました。
     
   ところで、2013年の世論調査では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がどんな病気か知っている人は約10%、名称を聞いたことがある人は約20%で、認知度は約30%であまり高くありません。このCOPDは、慢性気管支炎や肺気腫などにより慢性的に気道が閉塞し、肺への空気の流れが悪くなる病気の総称です。現在日本では、530万人の有病者がいて、年間の死者は、肝臓疾患の死亡者より多く、2万人近くになります。この疾病の大きな原因の1つは、タバコだと考えられており、2030年には世界の死亡原因の第3位になると予想されていることからも、世界的に重要な疾患と位置づけられています。
     
   慢性閉塞性肺疾患(COPD)やぜん息などの呼吸障害は、肺組織の化学応答が過敏になっている可能性が考えられ、呼吸と共に肺に入ってくる匂い物質を認識する肺神経内分泌細胞に存在する嗅覚受容体が大きな鍵を握っている可能性があります。鼻腔の嗅上皮に存在する嗅細胞の嗅覚受容体は、匂いの情報を脳へ伝えますが、肺の嗅覚受容体は脳へ情報を伝えるのでは無く、その場ですみやかに多量の生理活性物質を放出し、非常事態に対応しています。嗅細胞1ヶには、約400種類ある嗅覚受容体のうち1種類のみが発現されていますが、肺神経内分泌細胞には複数種の嗅覚受容体が発現しています。これは様々な匂い物質に幅広く速やかに応答する、すぐれたシステムだと思われます。
     
   COPDなどの疾病との関係で明らかとなった肺の嗅覚受容体ですが、本来の大切な役割は何でしょうか?肺には呼吸と共に様々な異物が侵入してきます。生存を脅かす刺激臭(たとえば硫化水素)もその例でしょう。これらを即座に排出するのには咳が有効です。つまり肺神経内分泌細胞の嗅覚受容体が異臭センサ−として常時働いており、神経伝達物質を速やかに放出、咳を誘発することで私達の身体は守られているといえます。
   
   肺の嗅覚受容体が、生存にとても大切だったと想像できますが、肺の嗅覚受容体についてはまだまだ未知のことがたくさん隠されているような気がします。たとえば肺には炎症、免疫と深く関わり、食機能をもつ肺胞マクロファ−ジがたくさんいますので、肺神経内分泌細胞由来の放出生理活性物質に影響を受け、肺の炎症・免疫が制御されているかもしれません。シックハウス症候群も肺の嗅覚受容体と関係があるかもしれません。また森林浴でのフィトンチッドや吸い込んだアロマ成分なども、単にガス交換で体内に取り込まれるだけではなく、肺の嗅覚受容体と積極的に反応し、様々な生理作用がもたらされている可能性も十分あると思われます。(by Mashi)
   

参考文献: Gu X. et al., :Chemosensory Functions for Pulmonary Neuroendocrine Cells.  American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology, Vol. 50, No. 3 (2014), pp. 637-646.
肺神経内分泌細胞にある嗅覚受容体の応答模式図
肺神経内分泌細胞にある嗅覚受容体の応答模式図